こんにちは、気分障害のアキです。
私は19~20歳の頃ネットカフェ難民を経験しました。
その時のことを書きたいと思います。
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アキのネットカフェ難民時代
祖母から「いつまでここにいるつもりだ?」と言われた瞬間、私は「ここに私の居場所は、ない」と悟った。
「ここ」どころかどこにもなかった。
モラハラ男から逃れてきた実家は猫ごみ屋敷で、私の部屋もぐちゃぐちゃだ。
人の住める環境じゃない。そこに、母はずっと一人で暮らしてきているわけだが。
私には何もできなかった。
持っていた一番大きなカバンに、服や化粧品を詰め込んで名古屋に向かった。
場所は、金山駅。
近くに日雇い派遣の事務所があり、ネットカフェもあった。
日雇い派遣はそれ以前もやっていた。
今はなき「グッドウィル」という派遣会社だった。
倉庫内軽作業を中心に、マネキンもやったし販促もやった。
仕事の有無はその日の寝床に関わる。
寝床が確保できず、財布に数百円しかない状況でも、おにぎりではなく私は煙草を買っていた。ラッキーストライクを。
ラッキーストライクは一番最初の彼氏が吸っていた煙草だ。
彼氏と言えるかはわからない。なにせ、3日しか続かなかった。
それから私は出会い系サイトで奔放な性生活を送ることになる。
別に最初の男に何か思い出があるわけじゃない。
ラッキーストライク。
その語感や、パッケージが好きなのだ。
金山駅の二階のトイレは、携帯を充電するためによく利用した。
ウォシュレット付きのトイレにはコンセントがある。
ウォシュレットの電源を引っこ抜いて、携帯の充電器を差す。
さみしさに震えながら、mixiに夢中になっていた。
でも、そこに中学時代の友人が「覚えてる?」と書き込んできた瞬間に、私は全てがむなしくなって、mixiをやめた。
それからは、2chのオフ板を見るようになった。
さみしいときに、2chのオフ板はとても良かった。
誰かがいる。
出会い厨もそれなりにいたけど、案外普通の人が多かった。ちゃねらーだが。
時々オフ会で飲んで、一時のさみしさは紛らわされた。
でも一人になった瞬間に、突きつけられる。
財布の中身と、明日の仕事という現実に。
ネットカフェのシャワー室で、服を洗っていた。
ドライヤーである程度乾かし、ナイトパックで寝ている間に干す。
なんで生きてるんだろう。
なんでここまでして生きてるんだろう。
でも死ぬのは怖かった。
いっそのこと風俗の仕事でもしようか。
年齢は19歳。
面接に行った。
でも、「暗い」と言われ面接は通らなかった。
うつ状態なんだから、そりゃあ暗いだろう。
なんの取り柄もない。
なんの役にも立たない。
ドブネズミのように生きている。
このままいつか、野垂れ死ぬのだろうか。
夜無人になったオフィスビルの2階は夜を過ごすのには絶好だった。
屋根がある。下はカーペット。トイレも使える。
防犯カメラはまだあまり普及していなかった。
同じネットカフェに出入りしていると、同じ境遇らしい人も何人か見かけた。
ネットカフェのシャワーを利用する層はまあ大体同業者だ。
視線も合わさず、挨拶もしなかった。
お互いに孤独だった。
そしてそうなる道を選んだのは、自分だったのだ。
この時野垂れ死んでいたら、今でもそう思うことがある。
あるいは、出会い系サイトで遊んでいたときに人身売買に遭っていたら。
どうなっていただろう。家族はどう思っただろう。
それでも私は日々生きた。
地べたを這いずりながらでも、生きた。
突然家を飛び出した私に、家族から連絡が入ることはなかった。
2chのオフ会で知り合った友人とゲームセンターに入った。
この時期、プリクラがとても好きだった。
何かにつけプリクラを撮った。
その日も、プリクラを撮りにゲームセンターに立ち寄った。
そこで、友人は一人の男に手を挙げる。
「おー!久しぶり!」
二人は旧友だった。
2月だった。
ネットカフェ難民になって3ヶ月目だ。
厳しい寒さに耐えながら日々生きていた。
雨の日は最悪だった。
大きな荷物に加え、傘はとてもかさばる。
その日も雨が降っていた。
傘を持たない私に、はじめて会ったばかりのその男は自分の傘を差しだした。
そして、3人で居酒屋に向かった。
私は飲むお金を持っていなかったが、いいよ、俺が出すから一緒に飲もうと男は言った。
私は自分の境遇を話すとき、努めて明るく伝えている。
かわいそうだと同情されたくなかった。
ドブネズミのような生活をしていても自尊心はあった。
飲んだ後、男はちょっと家に寄ってよ、と私を誘った。
どうせ身体が目当てだろうと思った。
でも男の家で渡されたのは、合鍵だった。
その男の家の、合鍵。
「僕は昼間家にいないから、ベッドもシャワーも好きに使っていいから。」
男は私に手を出さなかった。
それから、私はその家に居つくようになった。
自然に、同棲生活のようになっていった。
アルバイトも始めた。
日雇いじゃない、アルバイトを。
男は私に結婚して欲しいと言った。
一目惚れだった。放っておけなかった。好きだ。愛してる。
そんな言葉をかけられたことがなかった私は、戸惑った。
本気で言っているのか?
何か裏があるんじゃないのか。
でも男は、見ず知らずの出会ったばかりの女に自宅の合鍵を渡すような、愚直で素直な人間だった。
1年一緒に過ごして、私はその言葉を受け入れた。
屋根がある。
布団がある。
シャワーがある。
それだけでも貴重だった。
ありがたかった。
でもそれだけじゃなく、男は私に愛を説いた。
私には愛が理解できなかった。今も理解できていないと思う。
でも、「ここにいてもいいんだ」と感じるには十分だった。
安心できる場所。
帰ってもいい場所。
それは私にとって、当たり前のものじゃなかった。
夫は、私をそこから、救い出してくれた。