こんにちは、気分障害のアキです。
精神疾患を持っていると、リストカットなどの自傷行為にかられている人もそれなりな割合でいるように思います。
私も例にもれず自傷行為については、たまに頭をよぎります。
私の場合は「太ももを殴る」という形の自傷行為でありますが、先日頭が希死念慮でいっぱいの時、どうしようもなく太ももを殴りたくなったのでした。
ところで、動物もヒトと同じように自傷行為をすると知っていますか?
「人間と動物の病気を一緒にみる 医療を変える汎動物学の発想」という本を買ったのですが、そこには「過剰グルーミング」という自傷行為が獣医の間では非常にポピュラーなことであることが記されています。
動物たちにとってポピュラーな自傷行為ですが、獣医師たちはどのようにケアをしているのでしょうか。ヒトの自傷行為と共通するポイントはあるのでしょうか。
この記事では自傷行為について掘り下げてみていきます。
目次
自傷行為は精神疾患を抱える人だけが行うわけじゃない
精神科医たちによれば、自傷行為はふつうの人のあいだで広まっているという。セラピストや学校の指導カウンセラーは、その言葉が事実であるのを認める。
引用:人間と動物の病気を一緒にみるP254
故ダイアナ妃はカミソリやレモンピーラーで自分を傷つけており、アンジェリーナ・ジョリーも過去に自傷行為をしていました。ジョニー・デップやコリン・ファレルなどの俳優も自傷行為の過去を明かした有名人のひとりです。
ある二十三歳の女性はコーネル大学のウェブサイトに次のように書き込んでいる。
「私は十二歳のときからリストカットを始めました……カッティングした時の気持ちはと言えば、至福のときと言ったら一番近いかしら。気がすっと楽になるのです。」
引用:人間と動物の病気を一緒にみるP254
心臓科医であり、精神科医でもある著者は、リストカットで至福やリラックス、安堵を得られるということが当初信じられませんでした。
ヒトの精神科領域では、自傷行為が起こるのは子ども時代のトラウマや親の虐待のせいだと言われてきました。そのため過去のトラウマについて探る精神分析の手法がとられていたのですが、今ではその考え方は古いものになっているそうです。
調査によれば、自傷行為を行う男女比はほとんど同じで、子ども時代に虐待を経験していない自傷者も大勢いるといいます。
ではなぜ、彼らは自傷行為にいたるのでしょうか。
動物たちの自傷行為は「過剰グルーミング」
カメは足をかみ、ヘビは自分のしっぽをかみ、ウマは脇腹をかみ、トリは羽根を引き抜く。
ドーベルマンの70%が自傷行為を含む常同行動を行う。
イヌの自傷行為や常同行動は、イヌ強迫神経症と獣医師は呼び、ヒトにもまた「強迫性障害」というものが存在します。ヒトの強迫性障害で典型的な例が「手を洗い続ける」ことです。
ウマ、爬虫類、鳥類、イヌ、ヒトに見られる強迫的行動は、その多くが、自分の体をきれいにする活動と興味深いつながりがあるのも、どの動物にも共通しているところなのだ。
引用:人間と動物の病気を一緒にみるP260
獣医は動物たちの自傷行為を「過剰グルーミング」と呼んでいます。
グルーミングは多くの生物にとって、食べる・眠る・呼吸するのと同じくらい生きる上で根本的な活動で、自身の体だけでなく他の個体にグルーミングを「贈る」ことで保護を受けたり、けんかの支援を受けたりする社会的グルーミングも存在します。
これはヒトでも同じことがいえます。
私たちヒトは、暑いシャワーを浴びたり、マッサージを受けたり、化粧をしたり、ひげをそったりしてグルーミングを行います。
また爪の横の甘皮がささくれ立っている時はそれを取り除きたくなるし、ニキビをつぶしたくなるし、かさぶたを取りたくなるし、頭皮をかきたくなるし、鼻をほじりたくなる。
こうした行為からはとても強い自己安堵感が得られる。気持ちが楽になる、気分がよくなる。
それはリストカッターが手首を切ることで得られる安堵と同じものなのだそう。
過剰グルーミングは脳内麻薬を分泌する
痛みもグルーミングもともに、体内にエンドルフィンを放出させることが判明しているのだ。マラソンランナーにランナーズハイをもたらす、あの脳内麻薬様物質エンドルフィンである。
また、痛みによって体内にはカテコールアミンも分泌される。そのカテコールアミンに長期にわたってさらされると、主要器官がダメージをこうむるが、短期的には血糖値の急上昇・瞳孔の拡大・心拍数の増加などを引き起こし、体に活を入れる。
体内にもともと準備されている強力な化学物質の分泌を促すような刺激を、自傷行為は加えるわけで、ある意味では自分で自分に投薬しているようなものだ。引用:人間と動物の病気を一緒にみる P266
エンドルフィンは多幸感を得られる神経伝達物質で、その作用はモルヒネに似ていると言われています。
ちなみに、エンドルフィンに関連する食品として知られているのはチョコレートです。
チョコレートにはフェニルエチルアミン、カフェイン、砂糖、脂肪が凝縮されていて、砂糖はセロトニンの分泌、フェニルエチルアミンはエンドルフィンの分泌を促します。
また、カフェインは脳に刺激を与えるので、チョコレートを食べることで一時的に幸せで活発な状態を生み出すのです。
とはいえ、チョコレートがもたらす効果は一時的です。
痛みを伴う自傷行為は、エンドルフィンやカテコールアミンだけでなく、心拍にも影響を与えます。
自傷行為によって身体に起こる変化
自分の体をかむことで知られるアカゲザルに、リモートコントロールでチェックできる心拍数モニタのついた小さなベストを着せた。サルは見慣れない衣服を当然かじったのだが、そのときは彼らの心拍数は急上昇も急下降もしなかった。
しかし、サルが自分の体をかんだときは、その行為の前三〇秒間は、心拍数がぐんと上がっていた。そして、サルの歯が毛皮をかんだとたん、劇的に急降下したのだ。
心拍数の大幅ダウンーとりわけスリルや恐怖で心臓の拍動が早くなったあと、速度がストンと落ちると、安らぎがうまれる。引用:人間と動物の病気を一緒にみる P267
刃物を手に取って、その先の痛みや傷を想像しながら皮膚にそれをあてるとき、心臓が高鳴らない人はいないのではないでしょうか。
そしてその行為に及んだ瞬間に、心拍が急下降する。
その際に安らぎを感じ、更にエンドルフィンが分泌されることで、多幸感を感じるというのです。
グルーミングや自傷行為には、生化学的に「安堵を感じる」「気持ちよくなる」要素が詰まっているというわけです。
自傷行為に対する医療的ケア
生体反応として「気持ちよくなる」とはいえ、自分を傷つける行為は危険性をはらんでいることに変わりありません。
ヒトの精神科医は自傷行為に対して、人格障害や過去のトラウマを調査して、それぞれのケースについて理解しようと努めてきました。
しかし獣医たちは、自傷行為を行う動物たちに対して、良い意味で「精神分析」を行うことはできません。そこで、もっと直接的なアプローチをするのです。
動物の患者と話を交わす能力がないために、自傷行為の引き金を引く最も一般的な要素を特定した。
それはストレス、孤独、退屈の三点である。引用:人間と動物の病気を一緒にみるP268
自傷行為に対する獣医の医療的ケア
獣医は自傷行為をする動物をケアする際に、その動物の成育歴を分析してどの程度のストレスがかかっているのか評価するために、その動物の社会的背景や環境を調べます。
脇腹をかむウマは、他のウマや人間にいじめられていないか、安全な環境なのか。
ストレスに加えて、孤独もまた要因としてあげられています。自傷行為をするトリの近くに他のトリの鳥かごを置くと、それだけで自傷行為をやめるというのです。
群れで生活するウマや類人猿の多くは、同じ種の仲間と一緒の囲いにすると、自傷行為の回数がぐんと減る。それどころか、チーターから競走馬にいたるまで、さまざまな動物を、ロバ、ヤギ、ニワトリ、ウサギなどほかの種と一緒に暮らさせる場合もあります。
他者の存在を意識することで、気を配り、自傷行為の必要性を減らしているのです。
動物園や飼育されている動物は、高カロリーの食事に困りません。
本来食べ物を求めて試行錯誤し、探索し、身体を動かしているはずが、飼育されていることでやることがなくて暇を持て余し、退屈してしまいます。
そのための対処として、肉食動物には凍らせた血のボールを与えたり、土の山を作って自由に掘り返させたり、あるいはおもちゃを与えたりするのです。
そのような自傷に向かう関心をそらすための措置のほかにも、獣医は長期的な観点からストレス、孤独、退屈にについて解決するための社会的関係の改善を模索します。
自傷行為に対するヒトの医療的ケア
自傷行為をするヒトに対して精神科医が行うアプローチは、支持的カウンセリングによる心理療法です。
これは、動物に対して行われるストレス、孤独に対する処置と同じものです。
心理療法は、極めて重度な自傷行為に対する伝統的な治療法だが、自分の体を傷つける動物に獣医がとるふたつのアプローチを実際に組み合わせている。
支持的カウンセリングでは、リストカッターにまず手始めに群れを与えているのだ。そばに座って話を聞く人、信頼できる人がまず配置される。心理療法はまた、社会的グルーミングのひとつととらえることもできる。
声、言葉、反応、療法士の存在そのものによって、相手を「慰撫し」、気持ちを鎮める。実際に体にさわってマッサージを施すセラピーは、文字通り治療家と患者の肉体的接触があり、ストレスと孤独感に対して「解放ー安堵」をもたらすのに有効な方法である。引用:人間と動物の病気を一緒にみるP276
ヒトに対して行われる医療的ケアは、動物のそれよりも欠けていることがわかります。
それは「退屈」に対するアプローチがないことです。
テクノロジーの進歩によって、ヒトもまた食べ物を作ったり探したり狩りに行く手間がなくなりました。多くの人はスポーツなどの娯楽でその余暇を満たしますが、その余暇を持て余してしまう人も多くいます。
精神疾患のある人だけが自傷行為を行うわけではありません。そして、自傷行為は「過剰グルーミング」として現れます。
そのトリガーとなるのは、ストレスや孤独、退屈であると汎動物学は示唆しています。
汎動物学から得られる自傷行為に対するセルフケア
自傷行為は生化学的に「安堵感」や「気持ちよさ」が得られることが分かりました。
そして、自傷行為の要因として、「ストレス」「孤独」「退屈」があげられることも分かりました。
それらの事実から、自傷行為に対してどのようなセルフケアが有効なのか考えてみます。
1.エンドルフィンを取り入れる
自傷行為は「過剰グルーミング」です。ということは、過剰でないグルーミングを丁寧に行うことで、エンドルフィンが多く分泌され、満足感を得られるかもしれません。
例えば、美容院に行く、ネイルを施す、顔の産毛を剃る。
あるいは、チョコレートのようなエンドルフィンの分泌を促す食べ物を取る方法も一定の効果が得られる可能性があります。
チョコレート以外では、エンドルフィンの分泌を促す食べ物として「栄養豊富だが味のないもの」、「ピッツァ」などがあるそう。
研究チームはピッツァの摂取によって、脳の全体でエンドルフィンが有意な量、放出されることを発見したが、栄養豊富だが味のない飲料ではさらに多くのエンドルフィンが放出されることを発見したという。
また、サプリメントの中にもエンドルフィンの分泌を促すものがあります。エゾウコギです。
エンドルフィンは「安堵感」をもたらす神経伝達物質なので、自傷行為だけでなく、うつや不安障害などの症状にも効果があるかもしれません。
2.ストレスから離れる
家庭内に怒声が響けば、誰でもストレスを感じます。ストレスは自傷行為の要因となるため、出来ればストレス源から遠ざかるか、排除したいものです。
それが出来れば苦労はしないという場合がほとんどかもしれませんが、例えば家庭内に怒声が響いている、外から聞こえてくる音が気になるのであれば、耳栓で物理的に音を遮断したり、あるいはお気に入りの音楽をイヤフォンで聞くことで多少ストレスは和らぐかもしれません。
3.社会的なつながりをもつ
ストレスに並んで自傷行為の要因となるのが孤独です。孤独は自傷行為だけでなく、うつ状態も悪化させます。
とはいえ、社会に出て人とダイレクトにつながることにためらいがある人もいると思います。
そんな方にアキがオススメするのは、Twitterです。
Twitterにログインして、同じような疾病を持つ人とつながり、朝「おはよう」と書き込むだけでもいいのです。誰かが見ている、誰かに向けて発信している。
それだけでも孤独感は薄れます。
ただし、自傷行為を進んで行っている人をフォローするのはお勧めできません。
うつや自傷行為を克服し、回復しようとする人とのつながりが、あなたの回復の助けとなるでしょう。
4.没頭できる何かをみつける
うつ状態の場合は今まで楽しめていたことをなかなか楽しめない方もいると思います。
そんな場合にオススメなのは、日記を書くことです。
一日の体調や天気、出来事や心の動きを、机に向かって日記に書く時間を作ってみましょう。
もしくは、ブログを書くのでもいいと思います。
何か作業に没頭していることで、雑念は浮かびにくくなり、自傷への意識もそらすことが出来るでしょう。
ヒトは動物の一種に過ぎない
「人間と動物の病気を一緒にみる 医療を変える汎動物学の発想」には、自傷行為以外にも以下のような病気について、ヒト以外の動物とヒトとの共通点を見出し、獣医学からヒトの医学に生かせる知見がないか検討しています。
- 気絶
- がん
- セックス
- 中毒・依存症
- 「死ぬほどこわい」
- 肥満
- 過食と拒食
- 性感染症
- 思春期の行動
400ページほどの本ですが、自傷以外にもこれだけの項目があげられているのです。
精神疾患に関連するところでは、「中毒・依存症」や「過食と拒食」なども興味深い内容です。
興味がある方は、ぜひご一読ください。